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軌跡

9話

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仕事でくたくたになって古びたアパートの前まで辿り着くと
薄暗い街灯の下にそこに似つかわしくない浮世離れした人物が立っていた。


「よぉ」


見るからに高そうなスーツ。
昔とは違ってどこか大人びた表情を見せながら
遠慮がちにこちらに歩み寄ってくるのは

「道明寺・・・?!」

「久しぶり・・・だな」

「ひ、久しぶり」

お互い固まったように見つめ合って言葉が途切れた。
先に口を開いたのは司だった。

「おまえ、大丈夫か」

「は?なにが?」

「いや、そのあれだよ。ほら、おまえって貧乏くじ引くことに関しちゃ誰にも負けねーから
今頃どん底のホームレスでもしてんのかと思ってよ」

「はぁ!?そんなわけないじゃん!何よ貧乏くじって。
そんなことでへこたれるような雑草のつくしじゃないっつーの」

「ははっだな!」

「ぷっ。そんなことのためにわざわざここで待ってたの?
天下の道明寺財閥も暇なんだねぇー」

「おまえ、俺様がどれだけこのために仕事を超特急で片づけて来たか知りもしねーで・・・っと・・・
いや、べつにいいんだけどよ」

妙に照れた表情と口調で視線を外す司につくしも思わず意図を察して照れてしまった。

「なんで赤くなんのよ。ばっかじゃない。」

「うるせーな。俺は今でもおまえのこと・・・いや、なんでもねぇ」

言葉を濁す司につくしは悲しげに微笑むしかなかった。


「お茶・・・飲んでく?」

「あ?あぁ・・・」

黙ってアパートの階段を上がっていく。
つくしはこの状況は一体なんだろうと漠然と・・・ぼんやりと思っていた。
こんなとこ、もし類に見られたら類は嫉妬してくれる?
なんて自分らしくない女々しい考えが頭をよぎる。

つくしは苦笑して類を想う心に蓋をして
深呼吸した。


「狭くて悪いけどその辺に座ってて」

「別にもう今更驚かねーけどよ。でも・・・人の住む家か?これが・・・」

相変わらずの司の発言につくしはクスクス笑った。

「もう、ほんと相変わらず世間知らずのおぼっちゃまなんだから」

コーヒーを入れたカップを運びながらつくしは苦笑すると
司がふいに真剣な眼差しでつくしを見つめた。


「牧野、NYに来ないか?」

「は???」

「別に俺とどうのってわけじゃなくて
おまえの仕事ぶり評価してるっつーか。
こっち来て・・・やってみないか?」

「何言ってんの?私程度の人間なんて五万といるでしょ!?
NYでなんて無理に決まってるんじゃん」

「おまえいつからそんなんになった?
俺が知ってる牧野はもっとガッツがあるやつだったじゃねーか」

司の真剣な視線につくしは戸惑い俯いた。

「だって・・・そんなの急すぎる」

「目の前のチャンスを掴むだけの根性もなくなったのかよ。
類のせいで」

類のせいで・・・その言葉につくしは顔を上げた。

「何よそれ・・・花沢類は関係ないじゃない!」

司はおもむろにチェストに飾ってあった類の写真を手にした。

「じゃあ何だよこれ。いつまでも類の写真持って
それでも何もないって言えんのかよ!!」

「関係ないじゃない道明寺には!返して」

つくしが司の手から写真を奪おうとした瞬間
腕を掴まれ胸に抱き寄せられた。

「っ・・・!?道明寺っ!?」

「俺にしとけよ・・・牧野」

振り絞るような司の声につくしは何も言えず
気丈に振舞っていた今までの自分には
司の胸の温もりが凍った心を溶かすようで
突き放すことも出来ずに固まってしまっていた。


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