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頂き物です♪

Believe Your Smile * by星香様

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いつもの非常階段。
類が外階段から登って行くと、そこには予想通り先客が居た。
寒空の中、スカートが汚れることも気にせず、べたりと腰を下ろしている。
眠っているか、忙しなく何かをしているかが多いつくしなのだが、ここ最近、何をするとはなしに佇んでいることが多い。

憂いを含んだ表情で空を見上げるつくしの姿。
何となく声を掛けそびれていると、つくしの方が先に気付く。

「類…」
僅かに緩んだ表情に、類も目元を細める。
そのままつくしの隣まで来ると、同じように腰を下ろした。

静かに流れる、2人だけの時間。
特に何かを話す訳ではない。
つくしが参考書を片手に悪戦苦闘しているときも、類は『我関せず』とばかりにごろりと横になるだけ。
同じ場所にいるのに、お互い好き勝手。
今日も、隣に座ったからと言って、何をするでもない。
つくし同様、長い足を放り出し、軽く眼を閉じる。
その優雅な仕草を見ていると、外は寒いというのに、類の周囲だけは春のように見えるから不思議だ。
そしてそんな好き勝手しているというのに、何処かで繋がりがあるのは判る。

「……ねぇ……類……」
「……なに……?」

現にこうしてつくしが声を掛けると、類は微睡んだ表情で返事を返す。
その変わらない態度がつくしを安心させる。

勢いと情熱で始まった司との恋は、厳しい現実に直面し破綻した。
どちらが悪い訳ではない。お互い子供だったのだ。
後悔は無いが、全く傷付かなかった訳ではない。
人知れず、涙した夜もあった。

そんなつくしに、類は全く変わらずに接して来る。
慰めるでもない。
何かを尋ねるでもない。
アドバイスなんて、以ての外。
ただこうして側に居て微睡んで、同じ空気感の中に居るだけなのに、別れの傷を癒してくれる。

『こうやって、ずっと類と居たいな』
言おうとした言葉を飲み込む。



「ねぇ…類」
「……なに……?」

いつものように類が返事をする。
大抵はそこから他愛のないつくしの話が続くのだが、言葉が続かない。
うっすら目を明け、つくしの様子を伺うと、何か言いたげなつくしの顔。

ここ最近、一緒に居るとこんなことが時折ある。
何か言おうとして、その言葉を飲み込むつくしの姿。
その理由が、類には判る気がした。

司との破局の後、一時
-それこそほんの一時期だけなのだが、つくしに対し浴びせられたパッシング。

財産狙い。魔性の女。

それは司との婚約が噂された家によるもので、類は勿論、道明寺家でも動き、ニュースもその家も瞬殺された。
本人は気にしない、と笑って終わった些細な事件。

けれどつくしは以前より臆病になっている。
見た目には判らないし、下手したら本人すら気付いてないかもしれない。
だからこそ、無意識にしてしまうつくしのその行動が、類には堪らないほど哀しい。

-笑ってよ。牧野。

貼り付けたような笑顔じゃない、本当の笑顔が見たい。
つくしが望んでくれるのならば、その隣にずっと居たい。
そのために必要なのは、笑顔を護るための『力』
それは、類一人では出来ない。
だから…

「ね、牧野」
逆に類が尋ねる。

「……なに……」
「バイトしない?」
「え? バイト?」
降ってわいたアルバイトの話をつくしが蹴る筈がない。
『それは勿論』とばかりに顔を向ける。
……が……。

「俺を手伝って」
「……はい……?」
いきなりの結論に眉をしかめる。

言葉足らずな類に色々尋ねてみると、なんのことはない。
花沢物産でのインターンシップ制度に参加して欲しいというのだ。
大手企業で近年採用され始めた制度は、花沢に就職したい生徒達には人気がある。
態々つくしに頼む程ではないと思うのだが、類が「訳判らない奴と話すの嫌」という我が儘を言い始める。

「それに、うちのインターンはバイト料出るよ」
それは事実。
都内最低賃金程度だが、この制度にしては珍しい。

「でも…申し込みが…」
「採用者に牧野の内申送ったら、引っ張って来いって」
「……へ……?」
一体いつの間に? 大体がどうやって?
と、疑問符が次から次へと浮かぶのだが、当の類は悪びれもせず、しれっとしたまま。

「ね……だめ……?」
類が小首を傾げる。
ねだるようなその仕草に、つくしが笑う。

「全く……そんな甘いこと言ってて、仕事なんか出来ないよ」
「ん…だから手伝って」
類が手を差し出す。

「仕方ないな……」
つくしが差し出された手を取る。

「アンタの性根、私が叩き直してあげる!」
つくしからの宣戦布告に、類がにっこりと笑みを返す。
空は青く、何処までも澄んでいた。





-----



「グラン・マ! こっちー!!」

目の前を楽しそうに歩くのは幼い子供。
目を細めその姿を見ながら、つくしは昔見た写真の顔に似ているなぁ…と思い返す。
昔々、生まれて初めてのデートのとき。
類に見せて貰ったアルバムに載っていた、類の姿。
隣でつくしを支える末娘が、「よそ見していると転ぶわよ」と注意した。

冬の晴れたある日。
目的の場所に辿り着くと、つくしは手にした花束を目の前の墓石に手向ける。
類がいなくなって初めてのつくしの誕生日。
いつも類から貰っていた花を、今日はつくしが類に届けると、その前にしゃがみ込みそっと手を合わせた。


あの日、類に宣戦布告をしてから数十年。
類はいつもつくしの側に居た。
時に衝突し、時に泣き…
数え切れない季節を二人で乗り越えてきた。

「つくしが側で笑ってくれれば、幸せだった。
つくしの笑顔があったから、どんな苦難も乗り越えて来られた」

何かの折、類が口にした言葉を偶然耳にしたときに感じた、目の眩むような幸福感。
類の望む笑顔を返す。

「…笑ってよ…」
訪れた最期のときも、そう。
必死に涙をこらえるつくしに類が笑いかける。
涙をこらえ、つくしは心からの笑顔で類を送る。
満足そうに瞳を閉じた類の顔は、何処までも穏やかだった。



「…グラン・マ~」
無邪気につくしに話しかけようとする我が子を制する。

「…グラン・マはグラン・パとお話してるから、しばらくは二人きりにしてあげましょうね」
「ふぅん…?」
不思議そうに首を傾げるものの、母親の言葉に素直に従う。

長い間、手を合わせていたつくしが、ふと空を見上げる。
何処までも青く、澄んだ青空。
気温は肌寒いが、降り注ぐ陽射しが柔らかく暖かい。
以前、類と見上げた空と同じ。


「グラン・マ~。グラン・パとのお話、終わった~?」
少し離れた処から様子を伺っていた孫の声に、つくしは笑顔を返す。

-笑ってよ。つくし。
柔らかい類の声が聞こえた気がした。




-fin-
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鍵コメ「ノエ」様

コメントありがとうございます♪
MIYABI様より頂戴致しました。

出来上がってみると…歌の歌詞は何処へ?
というような内容になってしまいました。
それを無理矢理MIYABI様に押し付けるという悪行…
↑ハイ、極悪人です…(^^;)
添える花は…お好みのものを想像して下さると嬉しいです(^^)

お目汚し、失礼致しました。<(_ _)>

鍵コメ「凪」様

コメントありがとうございます♪
MIYABI様より頂戴致しました。

実は点線以下の部分で終了しようかな…? とも考えたのですが
「そしてどんなに離れていても」の歌詞から、こういった仕上がりになりました。
内容が内容なだけに、お渡しするか迷ったのですが……
そう、MIYABI様のお部屋なら…と甘えてしまいました(^^;)

お目汚し、失礼致しました。<(_ _)>

鍵コメ「みわ」様

コメントありがとうございます♪
MIYABI様より頂戴致しました。

お話のイメージとなった歌なのですが
最初聞いた時には「幸せな歌」というイメージだったのです。
が、ちょっと裏読み(?)すると、少し切ないお話にもなるかな…?
と、こういった仕上がりにしてみました。
そう言って頂けて、ほっとしております(^^)

お目汚し、失礼致しました。<(_ _)>

MIYABI様

この度は駄文が失礼致しました。<(_ _)>
素敵なアゲハを頂いたお礼がこれとは…
(しかも時間かかりすぎだし…)
あまりにもショボすぎるのですが…(^^;)
笑ってお許しいただければ…と思います。

今度はイベントなどでご一緒できるといいなー♪
等々思っております。
これに懲りず…これからも宜しくお願い致します~<(_ _)>
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